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12 どうして捜査でストーリーが作られるのか(3)

 筆者が少年鑑別所で働いていたころ、複数の男性が集団で一人の女性を強姦したという事件を取り扱ったことがある。そうした事件自体はそれほど珍しいものではないのだが、家庭裁判所の調査官が持っていた供述調書を見せてもらったところ、強姦をやった側の一人の供述調書に、強姦をやった動機として、

「通常の性的関係に飽きたらなくなってやりました。」

といった記載がなされていた。さすがにこれには調査官共々ちょっと驚いた。本人がそんなことを取り調べの段階で言っているとしたら、かなり変というか、ちょっと常軌を逸した犯罪者なのではないだろうか。それで、面接場面で本人に対して尋ねてみた。

筆者:「今回の強姦事件は通常の性的関係に飽き足らなくなってやったのですか?」

少年A:「そんなことはないです!」

筆者:「でも、供述調書にそう書いてあったようだけど。」

少年A:「あれは、なんで今回の強姦をやったんだ、動機はなんだと取り調べ官に聞かれて、答えられなくて、つまっていたら、取り調べの人に、通常の性的関係に飽き足らずやった、そうではないのか? と言われました。それで、違います、そんなことはないです、って答えたら、じゃあ何でやったんだ?って聞かれて、それで答えられなくて、そしたら、通常の性的関係に飽き足らずやった、そうだな、ともう1回言われて、それでそういうことになりました。」

 ということで、あくまでも本人の言によればであるが、この動機の部分は、取り調べの際に警察官から誘導されて書き加えられたとのことである。もし、少年Aの言っていることが本当であるとするならばであるが、取り調べの過程において動機がねつ造されたことになる。といっても、別に少年Aが無実の罪に陥れられるということではない。強姦をやったのは事実であるし、少年Aもそのことを認めている。いずれにせよ、強姦をやったことは事実だから、という理由で、少年A自身もこうした供述調書が作成されたことについては容認していたようでもあるし、この件は、その後の少年審判の流れでも特に問題とされることもなく、影響を与えることもなかった。

 動機については、犯罪をやった当人が、自身の犯罪行動の動機を詳しく説明することは難しい、と先に書いた。それで、世間が納得できるような動機の部分を、取り調べに当たった警察官が考えてあげた、ということになるのだろうか。

 もともとこの事件についての、本人の認識としては、「仲間と数人で飲んでいて、かなり酔っぱらって外に出て、ナンパをしているうちに、強引に女の子を家に連れ帰って、エッチしたいというのもあって強姦してしまいました。」というものである。そうした行動が引き起こされた要因については、本人の資質面や集団内の力動といった点で分析を加えていくことは可能であるが、本人の供述としては、「」に記載したものを載せておくのが一番真実に近いであろう。

 少年Aの取調官とのやりとりが真実であるとすればであるが、無理をして動機の部分をねつ造するのはなぜなのか、正直なところ、私にはわからない。酔っぱらった勢いでやった、という少年の認識をそのまま供述したのでは、説得力が乏しいと思ったのだろうか、あるいはもっと少年Aの悪質性を演出したかったのか、そしてそのような供述調書を作ることはその警察署の方針であったのか、取り調べに当たった警察官の個人的な性向であったのかは、よくわからない。

 繰り返しになるが冤罪ではないのだから構わないだろうという気もしないでもない。それにこの事件では、ねつ造された動機が、その後の少年審判の行方に影響を与えたわけでもないようである。

 ただ、こうした動機レベルでのねつ造が、警察の取り調べにおいて結構、おこなわれているとすれば、ストーリを作って取り調べをし、そのストーリにそった供述をねつ造するということであるから、少なくとも好ましいことであるとは思われない(繰り返すが、少年Aと取調官とのやりとりは、少年Aから聞いただけで、確証があるわけではない。また、警察官が犯罪者を逮捕するために日夜頑張っているのも間違いがない)。そこから、今回の前田検事のような、証拠の改ざんまでには、まだまだ越えなければならない一線があると思われるが、被疑者の供述だって立派な証拠の1つであり、それをねつ造するという行為は、だいぶその一線に近づいているのではないかとも思う。前田検事のような証拠の改ざんが起こる可能性を高めるような要因、体質といったものは、やはり検察内部にあったのではないかと私が考えるのは、こういったことによる。

 しかしながら、それでは一体、警察や検察官はどうすればよいのだろう。最初に書いたように、本稿は検察や警察を非難する目的で書かれたのではない。本稿は今回のような改ざんが行われた背景には、こうした要因があったのではないか、といったことを指摘することが目的である。そして、指摘した捜査機関の側にある要因、それは体質と言ってもよいと思うが、それ自身は、ある程度やむを得ないところもあるとは思う。

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