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6 ストーリーに沿った取り調べ(1)

 検察官のストーリーに沿った取り調べ、という言葉を聞くと、皆さんもさすがにあまり良い印象を受けないのではないだろうか。なんだか、事件をでっちあげているような、すごく悪いことをしているような感触がある。

 私の知り合いで、司法関係者の一人が、新人の頃にある警察官に、「警察で取り調べをするときに、ストーリーを作って取り調べをすることってあるんですか?」と聞いたそうである。まあ、こんなダイレクトに質問をする方もする方であるが、そこは新人ゆえの若気の至りみたいなところもあったのだろう。そう質問された警察官は、さすがにちょっと色をなし、「そういった先入観に基づくような取り調べは一切やっていません!」と言ったそうで、質問者はすいませんと謝ったそうである。少なくとも、ストーリを沿った取り調べ、と言われると、警察官もそして検察官もやるのは後ろめたいことである(犯罪ではないが)、という感覚を抱いているのではなかろうか。

 ところが、ストーリに沿った取り調べ、あるいは、捜査そのものは、特段変わったことではなく、捜査活動の中で普通に行われていることではないかと筆者は考えている。

 そもそもの、この事件を見てみよう。証拠隠滅容疑で逮捕された、前田恒彦主任検事は、大阪地検の事情聴取に改ざんを認めたが、「誤ってやった」などと故意を否定する説明をしている。間違ってやってしまったと語っているわけである。

 だからといって、その内容で供述調書を取ってしまうわけにはいかないだろう。検察の側で、「改ざんはしましたが、故意ではありません。間違ってやってしまいました。」などという調書を取って裁判官に提出することはないだろう。

 なぜかというと、

「前田主任検事は、村木厚子同省元局長の裁判において、自身の作ったストーリーに沿った判決を得るために、そのストーリと矛盾する証拠であるフロッピーディスクに記録された文書データを改ざんした。」

 というストーリーに沿った供述を得ることが検察官に期待されているからである(ここでは誰が誰に期待しているのかについての議論には踏み込まない)。ここはやっぱり、「自身の描いたストーリに不利になるような証拠だったので、フロッピーディスクを改ざんしました。」という供述が検察としては欲しいところなのだ。

 いくら改ざんをした本人である前田検事が「誤ってやった。」と言っているからといって、はいそうですかと納得するわけにはいかないのである。ここまでの事件全体の話の流れから見れば、前田検事は自身のストーリーに沿った判決を得るためにフロッピーディスクを改ざんしたに決まっているからであり、だから、「誤ってやった。」などといった本人の言葉はうそをついているに決まっているからであり、真実に本人がやったに違いない、「自分のストーリーに反する証拠だからフロッピーを改ざんしました。」という供述をしてもらわなければならないのである。ということで、検察官は取り調べの過程において、あの手この手で頑張って、前田検事に今回のストーリーに沿った供述を引き出すことに腐心するわけである。

 ずいぶん皮肉たっぷりにくどくどと記載してしまったが、ご容赦いただきたい。

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