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7 ストーリーに沿った取り調べ(2)

 前節では、ストーリに沿って裁判が行われることを企図して、改ざんをしたと疑われた検察官が、ストーリに沿った取り調べを受ける、といったパラドキシカルな話を書いた(その部分をあえて強調するように構成して書いた)。

大阪地検特捜部が押収したフロッピーディスク(FD)のデータが改ざんされた疑いのある事件で、証拠隠滅容疑で最高検に逮捕された同部検事の前田恒彦容疑者(43)が、「故意にデータを改ざんした」と認める趣旨の供述を始めたことが分かった。大阪地検の調査や逮捕後のこれまでの調べでは「誤って書き換えた」と意図的な改ざんを否定していた。
                                                         (asahi.com 2010年9月24日5時0分)

続報の記事では、このように故意に改ざんした旨を供述していることが報道されているので、その後、前田検事からは検察のストーリーに沿ったように供述が引き出されているようである。

 検察がストーリを作って供述を引き出すにしても、そのストーリーが真実であれば大した問題にはならないわけで、そのストーリーがいわゆるでっちあげであった場合に著しく問題になるわけである。

 今回、前田検事が疑われているように、証拠の改ざんがあったとすれば、それは言い訳のしようがない、重大な犯罪であるわけだが、ここから先は、「改ざん」という犯罪行為から少し離れて、ストーリーを作った取り調べについて考察していく。

 まず、何故に、ストーリーに沿った取り調べが行われることになるかと言えば(まるでストーリーに沿った取り調べが日常的に行われているかのような書き方をしたが、ここから先で説明するようなストーリーに沿った取り調べは、あっちこっちでやられている、と筆者は確信している)、犯罪者(ここからは前田検事の事件からは離れた話なので注意。犯罪者とはいわゆる一般の犯罪者を指す)というものは、とかく逮捕されると事件を否認するものなのだ。万引きなどで、犯罪を実行しているところを見つかって逮捕される、といった現行犯であればまだしも(それだって、「自分はやってない。」と供述する犯罪者はたくさんいる)、そうでなければまず自分はやってないと否認する。

 例えば、路上強盗をした犯罪者がいたとしよう。「道路で他人に暴力をふるって財布を奪って逃げた」といった犯罪である。警察は犯人を逮捕するために、例えば、目撃者の証言を集めて容貌の特徴や逃走経路を探ったり、現場に犯人の遺留品がないかどうかを探したり、すぐに警察への通報がなされていた場合には、現場に警察官を派遣したりといったことをする。そして、現場に派遣された警察官が、犯人が逃走したとされる方向で、どことなく挙動不審な男を見つけたとしよう。職務質問をするが、この時間に何をしていなのか、どこへ行くつもりなのか、今まではどこにいたのか、といったことにうまく答えられず、なんだかあやしい。そこで、一旦、最寄りの交番に連れて行って、詳しく事情を尋ね、所持品を調べていたところ、被害者が取られたと証言していた財布を所持していた。内容物を確認したところ、被害者の財布に間違いがない。目撃証言で容貌や年齢などがだいたい一致しており、逃走したとされる方面で職務質問も受けている。さあ、こいつが犯人に違いない。そこで、その不審人物を問い詰めたところ、

「私はやっていません。その財布は道路に落ちていたのをたまたま拾ったのです。」

と答えた。こういった話はよくある話である。その後、逮捕をして、取り調べを行うわけであるが、その取り調べで、供述調書に、その男が言ったまま、しゃべったままを書くわけにはいかないだろう。被疑者は道路に落ちていた財布を拾っただけです、といった供述調書を裁判に出すわけにもいかないだろう。だって、どう考えたってその男はあやしいから。その後、現場に残された犯人のものと思われる遺留品の手袋からは、その男と同一の指紋が検出されたりして。そうなると、もうこの男が犯人に間違いない、というストーリーで、供述を取るのみである。たとえ少々荒っぽいことをしたって。

取調官はこのように言うかもしれない。

「目撃者もいるんだ、指紋も出てきた、逃げた方向も同じだ、お前がやったんだろう、拾った財布なんて話が通用すると思っているのか、自分のやったことを自供しないというなら、おまえのようなやつは、何年でも刑務所にぶちこんでやるぞ。」

とか。机を叩いたり、怒鳴ったりするかもしれない。そうして粘った結果、その男は、「私がやりました。」と供述し始めた。

 こうしたやり方に一体何の問題がありますか?だって、その男が路上強盗をやったのは間違いないんだから。取調官も頑張って供述を引き出したわけだし、この供述をもとに起訴して、裁判でこの犯人を有罪にすることが社会的正義の実現ではなかろうか。たしかに、取り調べのやり方だけを見れば、刑事訴訟法第何条だかに抵触するかもしれないが。

 問題となるのは、本当はその男が実は強盗事件を本当はやっていなかった場合である。

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