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4 臨床心理学的な視点からの動機理解

 判決書に見る、事件に至る経緯では、本人が金銭的に追い込まれ、精神的にも追い込まれていった経緯が見て取れるのではあるが、そうした心理機制に関する分析はほとんど触れられていない。

 そもそも、犯罪の動機について理解するとは、本人のパーソナリティについての理解と、状況との相互作用で生じる心理的な過程を、もっと了解できる形で説明する、ということである。そうでなければ、どうしてこういった事件が起こったのかということの説明にはならない。

 ここから先は推測であるが、例えば、パチスロで金銭の浪費を繰り返していることから、本人は自己統制力に欠けるところがあるのではないかと思われる。先々のことを十分に考えて計画的に行動することが難しく、快楽追求的、成り行き任せ的に行動しやすいのではないか。おそらくは精神的に税胃弱であり、また、小心、気弱なところがあるものと思われる。後先を顧みず、目先の欲求に流されて行動するが、その結果生じ結果や責任を取りきれるだけの強さや主体性に欠けており、そうした弱さゆえに周囲の人間に嘘を重ねて取り繕ってしまうため、ますます精神的に追い込まれ、追い込まれるとそこから逃げるように一層ギャンブルにのめり込み、情緒面が不安定になり、冷静な判断力が失われた結果の破綻が本件に結びついたとか・・etc

 ここで述べた強盗殺人事件が引き起こされるプロセスは、判決書を見て書いただけの全くの推測であり、特段の根拠もないし、分析としては緻密さを欠き、そもそも分量が足りないことは承知願いたい。ただ、こうした心理的なプロセスや本人の性格、行動に照らして分析してこそ、本件非行の動機が了解できる形で説明されるわけである。そのためには、本人の生育歴、家族歴、事件に至る経緯について、ただ単に事実を列挙するだけではだめで、仮説を立てたり、解釈を加えたり、必要に応じて心理検査を実施し、本人が犯行を起こすにいたったメカニズムを明らかにしていかなければならないのである。

 我が国の刑事事件手続きにおける、動機の解明が不十分といったわけがご理解いただけたであろうか。

 日本の刑事裁判のシステムでは、精神鑑定が行われない限りは、心理学的な専門知識を有する者が、犯罪の解明に関わることはない。それゆえ、マスコミで話題にはなるものの、刑事司法システムの中では、事件の、そして加害者の心理学的な特性が説明されることはないまま処理されていくのである[1]。

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[1] 一方、少年事件の場合には少年鑑別所に勤務する法務技官、家庭裁判所の調査官という心理学の専門家が、非行少年の犯罪の動機解明を行うというシステムが取られている。この点は、刑事裁判とは対照的である。

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