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8 操作的定義と概念的定義(その1)

 犯罪は,実体のない構成概念であり,

  • 定義することで初めて取り扱いが可能となる。
  • その定義の代表的なものに刑法上の定義がある。
  • しかし,刑法上の定義では,犯罪の研究には不十分である。

 それでは,一体,犯罪の研究では,どのように犯罪を定義すればよいのか,という疑問が出てくるだろう。

 それに対する答えとしては,研究の目的によって,研究の手法によって,利用できるデータの性質によって,一番良いと考えられる方法で定義する,としかいいようがない。しかし,こうした言い方は無責任に聞こえるかもしれない。

 実際に,犯罪をどう定義し,どう数量化し,把握するかと言うことについては,後の授業で取り上げられる,自己申告式非行尺度のところで具体的に見ていくことにするが,その基本となる考え方について,この章で説明する。操作的定義と概念的定義のお話である。

 今回の受講者は心理学を学んだものが多いと思うので,「知能」を例にとって,操作的定義と概念的定義の説明をしてみよう。概念的定義とは抽象度の高い定義の仕方のことである。

 ウェクスラーによる知能の定義は,「個人が目的を持って行動し、合理に思考し、自らの環境を効果的に処理する総合的・全体的能力」というもので,これが概念的定義である。

 この定義を読むと何となく意味は伝わるものの,さあそれでは,目の前に対象者がいたとして,この人の知能はどのくらいなのですか?と問われると,どうしたらよいのかわからない。この人は合理的に思考しているのだろうか,自らの環境を効果的に処理しているのだろうか,そうするための総合的,全体的能力はどうか,などと言われても,どうすればよいのか解らないのである。  

 そこで,知能検査というものが登場してくる。知能検査は,複数種類の課題を実施してその成績を見ることで,その人の知能が解ることになっている。つまり,先に述べたような定義を元にして,どのような手順に従って,どのように対象者を取り扱えば,「知能(指数)」と呼ばれる結果が算出されるかが事細かに定義されているのが知能検査であるのだ。

 このように,意味は何となく分かるが曖昧な概念的定義を,具体的で,誰が取り扱っても等しい結果が出るくらいまでに客観的したものを操作的定義と言う。

 つまり,知能の操作的定義は,「知能とは知能テストで測られたもの」ということになる(犯罪統計入門 浜井浩一(編)2006 p.10)。

 このように操作的定義をすることで,実体を持たない知能を測定することが可能になるわけだが,さて,知能の操作的定義である,ウェックスラー系の知能検査(WISC-Ⅲ,WAIS-Ⅲなど)が,本当に先の概念的定義を操作化したものなのか?という問題は残される。

 操作的定義によって定義されたものが,もともとの関心事である概念的定義をきちんと捉えているかどうか,満足できる形で表しているかどうかが重要になるのだが,これが妥当性と呼ばれるものなのである。妥当性は信頼性という言葉とセットになって出てくるが,これについては,別の機会に取り扱うこととしたい。


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