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4 刑法における犯罪

 犯罪とは,刑法においては,

  1. 構成要件に該当する
  2. 違法
  3. 有責

 な行為であるとされる。
 ある行為が犯罪とされるためには,この3つの要件が充たされる必要がある。以下に3つの要件をどのように確認していくのか簡単に見ておこう。
 
 構成要件とは刑罰法規によって示される犯罪類型のことで,どういったことが犯罪にあたるのか,ということについて共通認識として取り決められた枠組みのことである。
 
 次に違法性であるが,構成要件に該当するような行為は,構成要件がもともと犯罪行為を類型化したものであるから,基本的には違法性が推定されることになる。しかし,刑法35条の正当業務行為(例.医師が手術で人体にメスを入れる),刑法36条の正当防衛,刑法37条の緊急避難(例.暴漢にいきなり襲われて通行人を突き飛ばして逃げた)等の違法性阻却事由に該当する場合には違法性なしとされ,構成要件に該当していても犯罪とはみなされない。
 
 最後に有責性であるが,

 刑罰を科すには行為者が自己の行為に関する法の命令・禁止を理解し,かつこの理解に従って自己の行為を制御する一般的能力を有していることが必要となる(吉川経夫 1987 「責任能力」に関する基礎的な考え方 島薗安雄・保崎秀夫・逸見武光編 法と精神医療 金原出版 13-25.)。

 この一般的能力のことを責任能力という。有責性に関する規定は,刑法39条1項に「心神喪失者の行為は,罰しない。」,2項に「心神耕弱者の行為は,その刑を減刑する。」と定められている。裁判で心神喪失が認められた場合には犯罪の構成要件に該当する行為を行った者でもその行為は刑事事件手続の上では犯罪ではないし,有罪判決が下されることもない。この場合の行為は犯罪ではなく触法と呼ばれ ,これが精神障害者の逸脱行為に対して刑罰が科さない刑法上の根拠となる。

 ここまでで見たようにある行為が刑法上で犯罪として認定されるためには幾つかのクリアすべき条件があることがわかる。

  刑事事件手続きにおいては,処罰が妥当かどうかということを巡って刑罰の謙抑性が求められ,いたずらに処罰すること自体が戒められるため,厳密な要件に適合する行為だけが対象となるのである(守山正・西村春夫 1999 犯罪学への招待 日本評論社)。

 実生活において我々が「犯罪」を思い浮かべるときには,法律の実務家,専門家でもない限りはこうした手続きを想定することはあまりないであろう。このことは,刑事司法システムに基づいて生じてくる犯罪現象と,一般的な犯罪についての感覚との間にズレが生じてくる可能性があることを示している。
 
 こうしたズレは,しばしば生じるのではないだろうか。例えば,飲酒運転による事故で,危険運転致死傷罪では,検出されるアルコール濃度が一定以上でないと適用されない。だから,飲酒で事故を起こしたら,被害者を救出しないで逃げて時間を稼げば(いわゆるひき逃げ)適用されないことになる。

 「飲酒で事故を起こしているのにどうして?」

 といった声が聞こえてくる所以である。

 条文は以下のようになっている。

(危険運転致死傷)
刑法第208条の2
アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
2 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。

 したがって、危険運転致死傷罪はバイクの運転手には適用されない。バイクを酔っ払って運転して人をひき殺しても適用されないのだ。

 「車だろうと,バイクだろうと,酔払い運転は走る凶器ではないか?」

 といった声が聞こえてきそうだが,その辺の運用は厳密にやるわけである。その結果,刑罰の運用についてどうもおかしい,納得ができない,といった世論が形成されることもあろう。


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