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6 レイブリング・パースペクティブ

 ベッカー(H.Becker),レマート(E.Lemert)らが提唱したラベリング理論においては,犯罪は,犯罪者としてレッテルを貼られる(ラベル付けされる)者とレッテルを貼る者(ラベル付けする者)の相互作用の中で生み出されるとされる。

 ラベリング理論では,犯罪行動は行為の属性として絶対的な悪であったり,属性として非難されるべき性質を備えているということはなく,社会との相互作用の結果生じることになる。先にも書いたが,刑法学上の定義はまさにラベリングと捉えることができる。

「罪刑法定主義と構成要件の概念は犯罪が「構成」されるものだということを明言している」(鮎川潤 2000 犯罪・少年非行と社会問題-社会構築主義の挑戦- 刑政,111,3,54-61.)。

 すなわち,構成要件該当性のような刑法学上の犯罪概念は,ある行為があったときにそれを犯罪と定義し,そして,その罪の重さはこの程度である,と定義しているわけであり,その定義は「犯罪とは何か?」という問いに対して,「こういう行為を犯罪と規定しましょう」という形で解答を与えるものとなっている。

 例えば,刑法235条には,「他人の財物を盗取した者は,窃盗の罪とし,十年以下の懲役に処する」と記載されているが,このように刑法典にはどういったことが罪に該当し,その罪はある量刑を科される対象となる,といったラベリングが存在するのみであり,何故その行為が犯罪とされるのかについては説明がない。こうしたラベリングは社会的相互作用の中で規定されたとしか言いようがない。

 さらに,ラベリング理論から発展してきた社会構築主義という考え方が,犯罪社会学の分野に取り入れられてきている。社会構築主義は社会問題の研究を主とする分野である。

「社会問題とは人々がそれを社会問題だと考えるところのものである」,「社会問題は何らかの想定された状態について苦情を述べ,クレイムを申し立てる個人やグループの活動である」,「社会問題の理論の中心課題はクレイム申し立て活動とそれに反応する活動の発生や性質,持続について説明することである」(キツセJ.I.&スペクターM.B. 村上直之・中河伸俊・鮎川潤・森俊太(訳) 1992 社会問題の構築-ラベリング理論をこえて― マルジュ社,Kituse,J.I.& M.B.Spector 1977 Constructiong social problems, Menlo Park,CA:Cummings Publishing Company.)

 社会構築主義は,社会問題を最初から実在するものとは考えず,人々の相互作用を通じてそうした属性,特徴,性質が与えられ,社会的に構築されるものと考え,社会問題として定義づけられていく過程に焦点を当てるアプローチをとる。

 この枠組みはそのまま,犯罪の分析に適用する事ができる。

「犯罪を行ったとされる人」と「犯罪を行ったとされる人を取り扱う権限を委ねられた人」による相互行為の中で行われる解釈を通じて構成されるものが犯罪となる(既出,鮎川,2000)。

 犯罪という現象は行為の実行者,被害者,捜査機関,裁判所,世論等がお互いに干渉しあい,相互作用した結果として産出されてくると考えられる。


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